請願第7号 (平成10年) 介護保険に関わる緊急な基盤制度と国の財政措置及び制度の抜本的改善を国に求める請願
受理日:平成10年6月5日
付託委員会:教育民生
議決日:平成10年6月17日
議決結果:不採択
益田 牧子
請願第七号
介護保険に関わる緊急な基盤整備と国の財政措置及び制度の抜本的改善を国に求める請願
主 旨
一 介護保険制度の導入に伴う需要増を見越し、国の十分な財政措置と補助率の引き上げにより施設及び在宅サービスの緊急な基盤整備を保険導入に先行して行うこと。
二 保険料徴収基準を見直し、減免制度を導入するとともに、自治体の裁量を制度として組み込むこと。また、利用料についても、同様の減免制度を導入すること。保険料滞納にともなう制裁措置は制度化を見送ること。
三 要介護認定については、身体機能(ADL)偏重ではなく、本人の総合的な実態、住環境、家族の状況及び意志など介護の必要度の総合的状況にもとづく認定方法に改めること。
四 実態に応じて必要な介護サービス水準を確保できるよう要介護度ごとの支給限度額を適正な水準に設定すること。
五 介護報酬は、施設及び事業者が安定した経営が維持できること及びケアマネージャーやホームヘルパーなどが専門職として確立し人材の維持・確保がはかられるよう適切な水準に設定すること。
六 介護保険のサービス受給中であっても必要な医療が迅速に受けられる制度にするとともに、特養ホーム入居者については、少なくとも現行どおり三カ月間は、病状が良くなれば施設に戻れることを保障すること。
七 高齢化率の高い自治体に対する財政支援措置を抜本的に強化すること。
八 「上乗せ」と称される市町村特別給付、「横だし」と称される保健福祉事業に対して国の補助制度を導入するとともに、介護保険の対象とならない高齢者施策についても国の補助の維持・拡大をはかり、自治体における積極的推進をはかること。
九 介護保険導入に係わる市町村の膨大な事務処理にかんがみ、早急にその内容と必要な情報を明らかにするとともに、市町村における円滑な実施ができるよう当該事務に関する人員・経費について必要な措置を講ずること。
理 由
「介護地獄」がいわれ、介護疲れによる無理心中など悲惨な事件も後を絶ちません。急速な高齢化の進展のもとで介護保障の確立は待ったなしの状況となっています。しかし、平成十二年四月より実施予定の介護保険制度は、上記のように重大な問題点を抱えており、このままの実施では住民の不信を招き、混乱すら予想されます。
厚生省は介護保険導入時までに新ゴールドプランを達成し、基盤整備をはかるとしています。しかし、目標を達成したとしても、厚生省が想定する在宅サービスの需要の四割をまかなうのみで、しかも市町村の七割が目標達成は困難としています。特養ホームについては約八万人の待機者が残されると推計されています。このままでは国民の権利行使の自粛を願うだけで、お金を取っても提供するサービスがないという深刻な契約違反の状況にならざるを得ません。
介護認定の問題も各方面で指摘されています。身体機能に偏重した認定基準の問題やそもそも認定のハードルが高く、現在介護サービスを受けている人でもかなりの人が認定から外れると推測されています。さらに認定されても、要介護度ごとに設定された支給限度額の範囲内におけるサービス提供であり、必要とされる介護にはとうてい及ばないと見られています。
「高齢化社会のため」として消費税を導入しながら、二兆円に達する介護保険料・利用料負担を新たに国民に強いる事にも強い批判があります。保険料については、国会答弁では導入時平均二千六百円ですが、高齢化率の高い地域ではかなりの高額の保険料となる見通しであり、また、三年毎に引き上げる予定となっています。六十五歳以上の一号保険者は年金からの天引きですが、約三割を占める三万円以下の低年金・無年金者は市町村が国保料に上乗せして徴収することになっています。しかし、国民健康保険でさえ二百九十六万世帯一八%もの滞納者がいるもとで、介護保険でも大量の滞納者の発生が危惧されています。災害時の特殊要因を除き減免制度が無く、滞納している場合は全部又は一部の給付の停止など厳しい制裁措置も盛り込まれています。
一割の利用料負担についても低所得者はとても払いきれません。特養ホームの現入居者で、日常生活費を含む六万円程度の利用料を払えない人は七割にのぼります。現行ホームヘルパー利用者も八三%が無料から有料になります。「低所得者への配慮」は限定的と見込まれており、利用料を払えない人は、保険料を払ってもサービスを利用できないことになります。
厚生省は、六十五歳以上で介護保険サービスの対象となる人は一三%と限定的に制度を設計しており、残りの八七%の人は生涯保険料を払い続けるだけで一切のサービス受給がないことになります。
社会保障に対する投資は、公共事業よりかなり高い経済波及効果を持つと言われています。ムダが指摘されている大規模公共事業でなく、介護保険の実施に向けた介護基盤整備にこそ緊急に大規模に財政を出動させるべきではないでしょうか。
地域住民の介護に対する切実な要求に応えるために上記の事項につき、地方自治法第九十九条第二項に基づき、国に対し意見書を採択されるよう請願するものです。