請願第2号 (平成29年) 熊本市議会は、議会(議員)と行政の関係のあり方を見直し、議会基本条例を制定し、「わかりやすく開かれた議会運営」の実現を求める請願
受理日:平成29年11月22日
付託委員会:議運
議決日:平成30年9月28日
議決結果:不採択
緒方夕佳
主 旨
一 議会基本条例の制定を必要としている今日の熊本市の実情。
二 政治倫理条例だけでは、市と議会の関係を適正化するのに不十分。
三 議会基本条例の目的・性格および特徴。
四 議会基本条例制定は、議会改革の戦略的課題であるため、議会活性化検討会においても、議会基本条例の制定についての審議を求める。
五 全議員参画・提案、市民参画型による議会基本条例の制定を求める。
理 由
一 議会基本条例の制定を必要としている今日の熊本市の実情
(一)市政治倫理審査会の勧告書は、議員の問題行動について以下の点を指摘している。
@「市議会議員という地位」で市執行部に発言し、「影響力を行使して、適正なプロセスを経て決定された予算を合理的な理由もなく執行させない事態を招いた」
Aその言動は「品位を欠き」「個人的な感情」で「恣意的で不適正」などとされた。
B議員本人は「執行部への監視」と主張するが、「行政の執行の監視は適正な手続きのもと、市民に対する説明責任を果たしうる形で行われなければならない」と批判。「そうでなければ議員個人の影響力を不当に拡大・行使することになりかねない」と警笛を鳴らした。
(二)市政治倫理審査会の伊藤会長は、議員の問題行動について以下の点を指摘している。
@「議員と行政の関係が透明でないことが問題の根源」である。
A「今回の事案は一議員の問題ではなく、議員と行政との関係がどうあるべきかを考えるべき事案。議員の要求や提案に、執行部がどう答えたか見えないことが問題の根源だ」
B「議員からの意見や要望を適切に市政に反映するためには、議員とのやりとりを記録し、組織として対応するのが基本。しかし、実態は形骸化している。議員と行政の関係は透明であるべきだ」と市執行部の対応に問題があったと指摘。
(三)熊本日々新聞(二〇一六年十月二十九日付)では、以下のように指摘している。
@これらを裏返せば、市執行部が内々に要求を受け入れてきたことで、議員の影響力を拡大させた。
A審査会長が市長に苦言を呈したように、勧告書は執行部にも向けられたものと考えなければならない。
B市と議会の関係をさらに適正化する機会にしてもらいたい。
(四)市長と議長は次のように述べている。
@大西市長「職員の意識改革に取り組み、議会との適切な関係づくりに努める」
A澤田議長「恫喝といった手段ではなく、建設的に議論できる議会にしたい」
二 政治倫理条例だけでは、市と議会の関係を適正化するのに不十分である。
今回の勧告では、「議員と行政の関係が透明でないことが問題の根源」と指摘されているように、「議員と行政はどのような関係であるべきか」が条例として規定されていないことに問題の本質がある。この規定がなかったため、「市執行部が議員の要求を内々に受け入れてきた」と指摘されているように、歴史的に蓄積されて起こったものである。
議員としての「影響力を行使して、適正なプロセスを経て決定された予算を合理的な理由もなく執行させない事態」を招いたこと、「執行部への監視」という名目で「議員個人の影響力を不当に拡大・行使」してきたという問題の複雑さ、その深さ・広さから考えると、「政治倫理条例」だけで、問題のすべてを解決するには無理がある。
「今回の事案は一議員の問題ではなく、議員と行政との関係がどうあるべきかを考えるべき事案」と指摘されているように、目に見えた問題だけでなく、この問題の背後にある議員と行政の関係について整理することは、全議員が考えるべき課題である。
全国的にも議会基本条例が制定され、議会・議員のあり方が問題となっている。
「個人的な感情」で「恣意的で不適正」な議員の執行部への監視・権力の行使ではなく、議員からの意見や要望を適切に市政に反映するためには、議会も組織として対応することが必要である。この議会基本条例の観点から、これらの問題を検証することには意義がある。
三 議会基本条例の目的・性格及び特徴
(一)議会基本条例は、「議会のあり方と議員の責務」の事項についての「最高規範」という性格を持ち、この条例の趣旨に沿って議会に関する条例、議会規則、議会告示等を見直し、 議会活性化と議会改革を議会に求める。
(二)この条例は「議会と市長・執行機関の原則的関係」と「議会の役割と責任」を定める。二元代表制の下、独立対等の関係である議会は、議事機関として熊本市行政の《意思決定》を行い、地方公共団体の行政全般について《政治的責任》を負っている。行政執行の構想・計画・実施・評価すべての段階において、議会はそれらを監視し、団体意思の執行を《監督》する役割を持つ。
議会は、市長が提案する計画、政策、施策、事業等について、政策等の水準の向上及び市民への公開のため、市長に対して、@政策等を必要とする背景、A提案に至るまでの経緯(検討した他の政策案・他の自治体の類似する政策との比較検討)、B市民参加の実施の有無及びその内容、C熊本市総合計画との整合性、D関係ある法令及び条例等、E財源措置、F将来にわたる効果及び費用等、政策等の決定過程を求める。
(三)この条例は、「議会の権限と役割」を最大限に拡大・強化し、《各議員の能力》をも最大限に発揮させるものとなる。
この条例は、市長が提案する議案に意思表示をするだけの議会にとどまるのではなく、各議員の「政策立案能力」を高め、「議員提案事項」を増やし、議会・各委員会における「議員相互間の自由な討議」を保障する。
各委員会において、論点を明確にし、事実と根拠に基づいて、議員間において自由闊達で十分な議論を行うことを求める。議員間の議論の前提として、委員会は必要に応じて、議員協働の十分な「調査」を行うことが必要である。委員会においては、自由討議により論点・争点を発見・整理・公開を行い、議論を尽くして合意形成に努めることが、合議制という議会の特性が生かされることとなる。この過程を通すことで、市民生活への十分な配慮した熊本市の団体意思が統一的に形成・決定されることとなる。
(四)この条例は、《質的に高い段階の議会運営と活動》を条例で保障し、「市民に分かりやすい、透明性の高い議会」を求める条例である。
「課題の掘り起こし」「政策立案」「施策の監視」という議会の機能を発揮するために市政及び議会運営における「市民との情報共有及び市民参画と協働」を保障する。議会が「住民と対話する場」を積極的に開き、「市民の提案・意見」を積極的に受け入れ、請願・陳情等は市民の「政策提案」として位置づけ、政策に反映していく。
委員会審議の過程で、請願・陳情の提案者の説明及び意見を聴く機会を設けるなど、市民に開かれた市民参画の議会運営などが求められている。
(五)この条例は、憲法の「地方自治の本旨」である《自治体の意思決定過程への住民参加》と改正地方自治法の求める「議会改革」を推進していくことを使命とする。地方分権と自治体の地方立法権(条例制定権)の強化・拡大により、議会の権限・役割・責任はますます重要になってきている。各議員も各会派も、これまでの熊本市議会の《慣例》という古い考え方、旧来の活動スタイルを変え、《新しい地方議会》の特性に基づいた熊本市議会を創造していくことが求められている。
四 議会基本条例制定は「議会改革」の背骨であり中心的課題であるため、議会活性化検討会においても議会基本条例の制定についての審議を求める。
(一)議会基本条例制定を中心にして、「議会改革」のうねりが全国規模で起きている。
全国一,七八八自治体の七〇〇以上(四割以上)、政令指定都市では二〇議会のうち一六議会(八割)で、熊本県下では一五市町村で制定されている。熊本市は連携中枢都市であるが、その連携する一六市町村のうち議会基本条例を制定している自治体も拡大している。この歴史的な地方議会の転換期に、熊本市議会が議会基本条例制定に歩みだすか、「残り四政令市の中でラストランナー」になるのか、重大な態度表明が迫られている。
(二)議会基本条例の制定は、これまでの議会改革とは、その内容と目的、性格において質的に異なっており、様々な議会改革を実現する戦略的な課題となる。
議会基本条例の制定により、議会及び各議員の活動は質的に高いものとなり、議会・議員のあり方を新しい段階へと切り開く。「開かれた議会」と「開かれた行政」となり、真に独立した議会と行政の対等な関係が始まり、議会による地方公共団体の意思決定とその決定に基づく行政の執行が確かなものとなる。このことで議会への信頼感とさらなる期待が高まり、市民のための市政および施策が実現可能となる。
(三)自治基本条例の制定により、熊本市の市長・執行機関は、制度として「市民に開かれた行政」に歩みだした。しかしながら二元代表制の地方の柱である議会は、未だ「市民に開かれた議会」に向かっていない。早急に「開かれた議会」にかじを取るべきである。
(四)「市議会会議規則」は、議会内部の事務的な規則で、議会基本条例に代わって、その役割を果たすことはできない。
(五)二〇〇九年九月九日議会へ提案された、くまもと未来作成 くまもと市議会「がまだす」条例(議会基本条例)は、九月十八日議会運営委員会に付託されたが、継続審議にすることなく、賛成少数で否決された。
しかし、その際の討論においては、議会活性化検討会副委員長も交えて、議会運営委員会での議論・検討することについて前向きな意見が交わされた。
その後も議会活性化検討会では、議会基本条例を制定した多くの議会の視察を行っている。また専門家の講演・助言・意見を聴き、「議会改革の背骨であり、中心課題である議会基本条例をぜひつくってほしい」と提案・助言も受けている。しかし「議会活性化検討会」では、委員の中で誰一人、議会基本条例の制定のための議題提案をしていない。何のための視察だったのか、疑問である。
議会活性化検討会においても、議会基本条例の制定についての審議を求める。
五 全議員参画・提案および市民参画型による、議会基本条例の制定を求める。
制定した他都市に学び、「熊本市議会に不足しているものは何か」「現在の市議会に求める役割・機能」などアンケートなどをとり、市民の声を聴くことから始め、市民も参画できる市民と議会・全議員の共同で「議会基本条例」が制定されることを期待する。
また各会派・各議員による「議会基本条例」の調査・研究・検討の取り組みが始まることを期待し、議会においても検討を求めます。